高窒素含有オーステナイト系ステンレス鋼の高温特性

摘要

窒素は，固溶強化によってステンレス鋼の強度を向上させるばかりでなく，ステンレス鋼の耐食性を改善する元素として古くから知られており，また，強力なオーステナイト生成元素であるため，高価なニッケルの代替として利用されてきた．近年では，より多くの窒素量添加を可能とした加圧溶解法により製造された高窒素ステンレス鋼に関する研究も注目されている．窒素の有効性は常温での耐食性，強度のみならず，耐熱性に対する効果も報告されているが，窒素含有量が0.4 mass％以下の比較的低い窒素量の鋼種系を用いた実験がほとんどで，しかも固溶化処理状態の特性評価が主体である．一股にオーステナイト系ステンレス鋼を耐食部品，耐熱部品に用いる際には，部品強度の要求特性に応じて，固溶化処理のままで使用する場合と冷間加工による加工硬化を利用して高硬度化する場合があり，実用合金として冷間加工材の高湿特性評価は重要となる．最近になって大同特殊鋼㈱では大気溶解でも0.5 mass％の窒素を含有できるNi-Cr-Mn系のオーステナイト系ステンレス鋼：DSN9を高強度高耐食材として開発しており，耐熱性に対する窒素の効果が期待できる鋼種の一つと考えられる．そこで本研究では，このDSN9を対象として固溶化処理材と冷間加工材の高温特性を調査し，既存オーステナイト系ステンレス鋼と比較した．また，冷間加工材の高温特性を評価する過程で顕著な時効硬化を見出したので，時効挙動を詳細に調査し，その時効硬化機構を検討した．この結果，DSN9の冷間加工·時効材は他の既存鋼種よりも優れた耐熱性を有することが判明したため，自動車エンジン用の排気ガスケットへの適用を検討した．