拡散律速反応の短時間ダイナミクスに対する理論とシミュレーション

摘要

流体中の2分子反応のダイナミクスでは，近接した分子とその近傍で生じる過程の他に，反応物分子が反応可能な距離に接近するまでの拡散過程の効果を考える必要がある。拡散律速反応は，活性化エネルギーが小さく拡散過程のみで反応速度がきまる反応である。光が関係するような高速反応では，通常の液体状態でも拡散過程が重要であるが，拡散が速い超臨界流体中の反応ダイナミクスを理解するためには，拡散過程に対する研究が不可欠である。 拡散律速反応の理論的解析には長い歴史がある。 その中で最も基礎的なモデルは拡散方程式に基づく理論で，標準的な物理化学の教科書でも取り扱われている。 筆者はこれまで，液体中で数ピコ秒程度の短時間に着目し，拡散方程式に批判的な立場にたって，拡散律速反応のダイナミクスを理論とシミュレーションによって研究してきた。 しかし，実際の実験結果の解析では，理論的な厳密性を求めるよりも，ある程度妥当な結果が簡単な計算で得られる古典的理論を用いる必要があることも多い。 また，超臨界流体中の反応ダイナミクスのような未知の分野を開拓していく場合には，指標となるシンプルなモデルが求められる。ここでは，やや拡散方程式に好意的な立場から筆者等のこれまでの研究を見直し，通常の高密度液体中のダイナミクスについてわかっていることをまとめる。 そして，そこから超臨界流体中の反応ダイナミクスを理解する辛がかりを得られればと考えている。