複雑系の理工学としての材料強度と破壊問題研究の切り口について

摘要

以上の結果から次の結論に到達する。 （1）降伏点等の塑性変形挙動や降伏強風脆性破風疲労破凰高温クリープ破風腐食環境下の破壊等々，すべての種類の強度と破壊において，強度は材料本体の一点（巨視的ないし微視組織的）における応力によって規定されるものではない。 すなわち，強度を規定する現象は，ある程度の大きさの（寸法の）領域（容積）によってきまるということになる。 （2）この領域は脆性破壊ではプロセスゾーン，クリープ破壊ではクリープ,乱降伏強度では限界層，疲労破壊では有効容積などといった，さまざまな言葉を用いながら使用して，実験で得られた強度と合致するように求めているものである。 古来Neuberによる有効容積（有効層）は正に，この特別の場合に対する表現法であると言える。 疲労やクリープ等におけるいわゆるDamage zone（損傷領域）の概念も，この手法に他ならない。 （3）この限界容積のナノ，微視構造を解明し，これに及ぼす応力，温度，物体の形状·&寸法，環境条件の効果を定量的に解明することが，今後における強度と破壊研究の緊要な目標であろう。この解明によってこそ，高性能力学材料開発や信頼性の高精度評価が可能になるのであろう。（4）この（3）の目標達成のためには，材料強度と破壊を複雉系として，少なくとも複雑系の理工学として研究開拓する必要があろう。 （5）このための一つの切り口的研究としては，まず，系統的しかも的確な（refined）なデータベ山スの構築が必要であることを提案したい。