体温を調節する中枢神経回路メ力ニズム

摘要

体温の調節は恒温動物において最も重要な恒常性維持機能の1つである.脳内には視索前野に位置する 体温調節中枢を司令塔とする体温調節の神経回路システムがあり,このシステムは,1)体温調節中枢が深部体温や環境温度の情報を受け取る求心路,2)それらの情報を体温調節中枢内で統合する局所回路,そして,3)そ の統合の結果,恒常性を維持するための自律生理反応を惹起する指令を体温調節中枢から末梢の効果器へ伝達す る遠心路,の3つの部分に分けることができる.深部体温は脳温度として体温調節中枢内の温二ユーロンが感知 する.環境温度は皮膚の温度受容器で感知され,脊髄-外側腕傍核-視索前野の経路を経て体温調節中枢へ伝達さ れる.体温調節中枢内ではこれらの温度情報が統合されるだけでなく,感染時には発熱メディヱ一ターであるプ ロスタグランジンE2が産生され,免疫系からの感染シグナルも統合される.体温調節中枢からの出力は抑制性神 経伝達であり,遠心路を構成する視床下部背内側部のニューロンゃ吻側延髄縫線核のプレモ—ターニュ—ロンへ 送る恒常的な抑制信号のト一ンを変化させることで遠心路の興奮性神経伝達の活動を微^9に制御する.プレモ— ターニューロンからは交感神経系ならびに体性運動神経系を介して末梢効果器へ興奮性指令が伝達され,褐色脂 防熱産生,ふるえ熱産生,皮膚血管収縮などの自律性体温調節反応が惹起される.この神経回路機構における体 温調節中枢からの下行性抑制信号のト一ンが,教科書的によく知られる体温のセットポイントの実体である可能 性が考えられる.この神経回路は体温調節を担うだけでなく ,感染時の発熱や心理ストレス性体温上昇などを駆 動することで環境ストレスから生命を守る機能をも担う.本稿では,ラットを用いたこれまでの研究成果をもと に構築された自律性体温調節,感染性発熱,心理ストレス性体温上昇を担う中枢神経回路メカニズムを概説する.