臨床医がうつ病モデル動物に望むも

摘要

うつ病研究にあって，うつ病の病態解明，治療薬の開発，多くの提唱されている仮説の証明，などのために，動物モデルは必須である.もちろん，うつ病のような人間的な病を動物でモデル化することなど不可能であり，またそのようなことを考えること自体，笑止千万であるという感情的な反発もある.しかし，うつ病を行動の異常，環境への不適応，ストレス脆弱性の問題と捉えれば，動物モデルへの理論的な枠組みは十分に可能である.また遺伝子レベルでも動物と人間のストレス反応性には共通項が多く，方法論的にもナンセンスではない.ただ，現在のうつ病動物モデルに不十分な面もある.抗うつ薬という頼りないものにモデル概念が大きく依存していること，「ストレスモデルさうつ病モデル」と考えられていることが多いが，そうだとすると不安やストレス障害モデルとの区別が不明確になる.「うつ状態」からしかモデルを見ていない傾向がある力s'， 「躁」「うつ」病相の波こそがうつ病の本質であり，これをどう再現するかが問われる.またうつ病の背景にある認知障害へのアプローチが欠如している点や，うつ病サブタイプ（非定型，気分変調，双極，季節性，老年，産褥期など）の視点が不足していること，実用的には難治性うつ病対策への貢献こそ必要ではないか，ということなどが感じられる.