ラットの睡眠覚醒パターンに対する認知症治療薬の影響

摘要

認知症は，記憶障害を主症状とする神経疾患であり，随伴症状として睡眠障害が高頻度に生ずることが知られている．認知症の治療には，ドネペジル，ガランクミンおよびビラセタムなどの薬物が使用されている．ドネペジルは睡眠障害を誘発することが報告されており，一方，ビラセタムは眠気を誘発することが知られているが，睡眠覚醒パターンに対するガランタミンの影響を検討した成績はほとんど見当たらない．そこで，本研究では前頭葉皮質の脳波および頸部筋の筋電図を指標として，ラットの睡眠覚醒パターンに対する各種認知症治療薬の影響について検討した．実験には，底に水を張ったグリッド上にラットを置くことにより作製した睡眠障害モデルを用いた．ドネペジルおよびガランクミンは，単回投与ではいずれの用量においても睡眠導入溶暗および睡眠覚醒サイクルに影響を与えなかった．一方，ビラセタムは，500mg/kgの用量で睡眠導入潜時の短縮作用を示したが，睡眠覚醒パターンには影響を与えなかった．次に，反復投与の影響を検討した結果，ドネペジルは，1mg/kgの用量で睡眠導入潜時の有意な延長作用，覚醒時間の有意な増加作用およびnon-rapid eye movement（NREM）睡眠時間の有意な短縮作用を示したが，ガランクミンは，ラットの睡眠導入溶暗および睡眠覚醒パターンに対して影響を与えなかった．一方，ビラセタムは，睡眠導入潜時および覚醒時間を短縮させた．以上の成績より，ドネペジルは，睡眠障害を悪化させることが判明し，ビラセタムは眠気を誘発することが示された．また，ガランクミンは，ラットの睡眠覚醒パターンに影響を与えない薬物であることが判明した．