肺癌に対する低侵襲手術の基礎と臨床 胸腔鏡下手術およびロボット支援手術

摘要

ビデオ內視鏡機器やハイビジョン等のモニタ画像および内視鏡用手術器具の開発，発展により，現在，外科手術は大きな変革期にある.呼吸器外科手術においても20cm-30cmの切開創からの開胸手術に代わり，内視鏡カメラを使用した小切開創（孔)からの胸腔鏡補助下手術(video-assisted thoracic surgery; VATS)が的に行なわれるようになってきた.-方，肺癌はわが国において悪性腫瘍による死亡の第一位であり，肺癌手術症例数は増加している.この中でもCT検診の普及などによりVATSの良い適応であると考えられる末梢小型肺癌患者数が増加している.切除可能な肺癌に対する標準外科治療は今日でも「肺葉切除（または肺全摘)+リンパ節郭清」であるが,早期病期すなわちリンパ節転移の頻度が少ない臨床病期IA期肺癌を中心にVATSが全国的に広く行われるようになってきている.日本胸部外科学会の集計によると2007年の1年間に施行された肺癌手術における肺葉切除は20647例であり，このうち10327例(50.0%)がVATSで施行された.しかし，肺癌診療ガイドラインでは肺癌に対するVATS手術が標準手術と比較して予後侵襲性·安全性などの点で同等ないし優れているかどうかに関しては，肯定的な研究は多いものの確定的な結論はでておらず，行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(推奨グレードC)とされている.このように手術の安全性および根治性の面から今日でもVATSが肺癌手術として. 完全に受け入れられているわけではない.