高次脳機能障害と神経心理学

摘要

高次脳機能障害というのは,失語症.失認症.失行症,記憶障害.遂行機能障害,痴呆など,大脳皮質の後天的損傷によって,いったん獲得されたさまざまな認知機能が障害される病態を包括的に指し示すための名称であり,内容的には"臨床神経心理学"とほぼ同義である.しかし最近,"高次脳"という若干意味不明な表現が用いられる場合があり,その"機能障害"が高次脳機能障害であるという誤った理解が潜行しているふしがある.わが国では"日本失語症学会"が発展的に"日本高次脳機能障害学会"と改称した(2003年,http://www.higherbrain.gr.jp/)が,これは失語症をその象徴的病態とする"高次の脳機能障害"を研究する学会である.この領域において最近もっとも大きな動向のひとつは,"認知科学"との接近であるといえる.しかし臨床的には,"認知障害"とともに,意志と表象と記憶とを基盤とする再帰的"意識"の病理を本格的に考究することが重要であると思われる.