DICの歴史と微小循環障害

摘要

播種性血管内凝固症候群（disseminated intravascular coaguIation：DIC〉では多膿器性の微小循環障害が起こるが，その際,網内系は内毒素の血管内侵入や癌細胞の浸潤·播種などを契機としてサイトカインを生成し，流血中に放出することにより微小循環障害が進展することが，病像の進展に決定的な意味をもつ．網内系に分布するマクロファージは古くから，肝や腹部臓器循環血流の調節に大きな殺割を果たすことが認知されてきた．DICの疾患背景として頻度の高い悪性腫瘍の症例では，外科的手術侵襲を契機としてDICスコアが増加することがあるが，そのような手術侵襲を最低限に維持し，最善の術後管理を行うためには,臓器微小循環病態を理解することが不可欠である．DICの病態は線溶凝固異常症としてとらえるのでなく，侵襲に伴う生体防御反応の総体として理解することが必要である．このような基本的考え方は，DICという概念が提唱された1950年代より以前にフランス医学のなかに存在し，"悪性症候群"という名でよばれていたことはあまり知られていない．本稿では，そのようなDIC病態を理解するうえできわめて重要な歴史的背景に触れるとともに，そこから読み取れるDICの新しい考え方を考察したい．