塩酸ドネぺジル療法により日常生活能力と成長率の改善がみられたDown症候群の1例

摘要

ダウン症候群（DS)患者は，加齢と伴にアルツハイマー型認知症（AD)発症頻度が墙える一方で，20歳前後をピークとして日常生活能力が比較的短期間に衰退（急激退行）することがある.さらに10歳未満のDS患児でコリン作動性の低下によると思われる排尿障害も合併する.DS患 者にみられるこれらの病態に対して，ァセチルコリンエステラーゼ阻害剤である塩酸ドネぺジル の有効性が示されているが，これまで幼児への使用報告例はなかった.今回，我々は強い拒食で 食事摂取が困難になり，種々の治療で改善を認めなかつた5歳のDS患児に塩酸ドネぺジル療法 を行い，良好な結果を得た.本児においては日常生活能力の改善のみならず，血中インスリン様成長因子l(IGF-l)誘導による成長率の改善も示唆された.本例は，DS患者はAD発症には早すぎる幼児期にも急激退行を認めること，またそのような状況で塩酸ドネぺジルが有効であること から，コリン作動性の一過性?可逆的障害が病態に関与することを臨床的に強く示唆する貴重な 症例であると思れる.