ヒト射出精子に与える精漿中元素の影響

摘要

金属元素と男性不妊との関係を調査するため, 119例から回収された精液を対象に,精漿中元素濃度をフレーム原子吸光法,比色法,マイクロ波-プラズマ質量分析法で測定し,各元素濃度と精液パラメーターの関連を調査した.また,影響の確認された元素については添加実験を行い　 in vitroにおける効果についても検討した.着意な精液所見の変化は亜鉛,銅およびカドミウムにおいて観察された.亜鉛濃度300mug/ml以上群(n-24)の精子運動率(32.4(+-)27.4%, mean(+-)SD)は,他の200mug/ml未満群(46.3(+-)22.8%, n=58),200以上300mug/ml未満群(49.1(+-)29.8%, n=37)より有意に低下していた(p=0.0161).銅濃度0.20mug/ml以上群(n=32)の精子運動率(32.7(+-)27.7%)は,他の0.15mug/ml未満群(48.7(+-)23.8%, n=59) , 0.15以上0.20mug/ml未満群(48.8(+-)27.5%, n=28)より有意に低下していた(p=0.0179).カドミウム濃度0.001mug/ml未満群の総精子数(456.1(+-)443.7×10~6, n=25)は他の0.001以上0.010mug/ml未満群(302.9(+-)340.8×10~6,n=80) ,0.01mug/ml以上群(179.2(+-)126.2×10~6, n=10)より着意に高値であった(p-0.0152). In vitroにおける亜鉛(ZnSO_4·7H_2O) ,銅(CuSO_4·5H_2O)曝露では, 300mug/mlの亜鉛, 50mug/mlの銅曝露で精子運動の指標(運動率, linearity, velocity, ALH)が経時的に低下した.精漿中の過剰な亜鉛および銅の存在は,ヒト射出精子の運動性を抑制することが,またカドミウムは精子形成能の抑制に関連があることが指摘された.