減胎手術の経験が患者夫婦に及ぼす影響

摘要

排卵誘発剤の使用や生殖補助医療等の不妊治療により当院では11.4%が多胎妊娠に至っており,諸事情から減胎手術を受けることを希望する患者夫婦もある.今回,これらの患者夫婦は減胎手術を受けたことをどのように捉え,またそのことがその後の出産·育児においてどのような心理的影響を及ぼしているのかを調査した. 1993年より2000年までの間に当院において減胎手術を受けた患者夫婦27組を対象にインフォームドコンセントを得た後に当院作成の無記名·選択式の質問紙を郵送により配布·回収した.減胎手術を受けることを決断するにあたり84.6%が夫婦以外には相談していなかった.また減胎手術後,減胎手術を受けたことについて振り返って考えてみたかどうかを出産前·出産後で比較すると妻側はいずれも76.9%であったのに対し夫側は約半数が考えてみたと回答した.減胎手術を受けたことを将来子供に話すかどうかとの問いに「話さない」と回答したのは妻側84.6%に反して夫側では36.4%に止まった.減胎手術を受けた患者夫婦は減胎手術を受けることを夫婦と生まれてくる子供の問題として捉えており,この時点で夫婦の意思は統一されているが,手術後,比較的夫側は肯定的に手術を受けたことを捉えているのに反し,妻側では後悔や自責感から否定的に捉えているという差が生じてきている.減胎手術については生命倫理的な観点からすべきでない医療行為とされている現状においては,望まない多胎妊娠を予防すべく策を講じることが先決であると考える.