胸部食道癌術後におけるSystemicInflammatoryResponseSyndrome（SIRS）の発生とその臨床的意義についての検討

摘要

1991年1月から1995年12月の間に当院で胸部食道癌切除術を施行された35例を対象とし，術後のSIRSの発生とその臨床的意義を検討した．SIRS発生例は33例（94.3％）で，SIRSの全平均発生期間は3.4(+-)0.3日であった．術後肺合併症を生じなかった群のSIRS発生期間3.1(+-)0.4日に対して生じた群では5.0(+-)0.7日で有意に長期間であった（p＝0.0369）．術後総ビリルビン値の最大値が2.0mg/dl以下であった群の2.7(+-)0.6日に対して，最大値3.0mg/dl以上の高ビリルビン血症を呈した群では4.3(+-)0.5日と長い傾向にあった（p＝0.0526）．また，総ビリルビン値はSIRS発生期間と有意な相関を認めた（p＝0.0435）．術前に補助療法を施行した群と施行しなかった群ではSIRS期間に全く差がなかった．以上の結果より，①SIRSを術後に診断することが合併症（特に肺合併症）に対する治療開始を考慮する1つの目安になる．特にSIRS期間が5日間以上にわたる症例には肺合併症が有意に多く，注意が必要である．②長期SIRS群には病理病期IV期症例が多いことから，術中に広範囲のリンパ節転移が予想されたような場合は要注意である．また，血中総ビリルビン値はSIRS期間と有意な相関を示しており，術後に高値を示す場合にも注意が必要である．③術前補助療法はSIRS期間に影響を与えないため，積極的に考慮してもよいと思われる．④胸部食道癌手術はほとんどの症例が術後に一度はSIRS状態となる侵襲の大きい手術であり，郭清領域の決定は腫瘍の進行度や患者の状態を総合的にみて判断すべきである．との結論を得た．