シーケンシャル記憶課題の記銘時におけるα波帯域脳律動の変調メカニズム

摘要

連続して呈示される記憶対象は、最初や最後のものほどよく記憶されている（初頭性·新近性効果）。ランダムな順番で連続呈示される上下左右の矢印を順番通りに記憶してもらい、矢印の後に呈示される想起番号で指示された順番に該当する矢印を回答するという記憶課題を実行中の脳磁場を測定したところ、α波帯域脳律動（以下α波）の振幅は矢印呈示中の前半から中盤にかけて増大し、後半にかけて減衰することを見出した。今回は記銘中のα波の前半の増大と後半の減衰がなぜ起こるのか探るために、①矢印個数を変化させた実験、②α波変調部位の推定という2つの実験を行った。①では、中盤に比べて最初や最後の矢印を想起した場合の記憶成績が高いという初頭性·新近性効果が、矢印個数に関わらず観察された。一方で、α波の後半の減衰は矢印個数が少ない場合は消失した。②では、SPMを用いた変調領域の推定により、前半のα波の増大は視覚野近傍で起こることを見出した。これらの結果から、記銘後半のα波の減衰は記憶とは直接関係なく、想起に向けた注意によるものであると考えられる。一方、前半から中盤にかけての増大は課題に関係のない視覚情報の抑制によるものと考えられる。