18世紀ドイツの化学：歴史記述の問題

摘要

18世紀の化学の流れをトータルに理解しようと試みるものはだれでも，これまでの歴史記述に問題があることに気付く．それは，遅れてきた科学革命として一般史家からも注目を浴びた「ラヴォワジェ革命」1）に強い光が当たりすぎて，その以前の化学の営みが闇に沈められている，あるいは「ラヴォワジェ革命」の敵役の藁人形（フロギストン説）に定められていると言えるからである．トーマス·クーンの科学革命論のタームを借りれば，化学史の歴史記述が「科学革命」に寄与したファクターという観点に偏り，それ以前の「通常科学」の営みが正面から捉えられていないと評することもできよう．　今回のレヴュー論考は，18世紀ドイツの化学を通常科学の営みとして描く試みの出発点となることを目指している．具体的には，主としてフツフバウアーとクラインの研究に基づき2），論点整理を提示しよう．