水域環境評価への固液混相流モデルの貢献

摘要

本稿では、近年の水工学における固液混相流モデルの展開について、流砂·漂砂水理学を軸に述べた。 モデリングに意識を向けた記述としたので、水域環境への貢献と題しつつも、環境問題への適用事例の具体的紹介は行わなかったが、ここでは流砂·漂砂水理学と水域環境問題の接点について簡単に述べることとしたい。 一般論としては、水域の生物は魚類であれ底生生物であれ、水流と土砂輸送に伴う地形変化の場をハビタート（生息域）としており、水流と底質土砂はともに、ハビタートの物理環境の主要なファクターであることは言うまでもない。 例えば、分級による粗粒化の進行により礫床が出現し、河床の礫が長期間固定されると藻類の定着に有利な条件が生じ、これが魚類の餌場を変化させるだろう。このように、分級を含めた底質の状態は、ハビタートを評価するための主要な指標である。さらに言えば、生物自体の活動がこれらの物理環境に大きな影響を与えることは希で、水流と土砂輸送に伴う地形変化の場がそこで暮らす生物から有意なフィードバックを受けることはないと言ってよい。 言い換えると、水流と土砂輸送の相互作用系が適正にモデル化されれば、ハビタートの物理指標の予測の精度も向上する。