RNAの世界へようこそ

摘要

"RNAワールド仮説"，読者の皆様も一度は耳にされ たことがあるかと思う.自己複製系を有するRNAが太 古の昔において主役であり，その後進化の過程で遺伝情 報保持の役割はDNAへ，酵素活性の役割はタンパク質 へと推移していったとされる仮説である.この仮説の歴 史は意外に古く，1960年代後半にはDNA 二重螺旋構造 発見で有名なCrickが，原始生命機構はタンパク質を介 さずRNAのみから成っていたのではないか，そして最 初の酵素は複製機能を有するRNAだつたのではないか， といういわばRNAワールド仮説の原型について言及し ているその後1981年，Cechらによって繊毛虫 Tetrahymenaから自己スプライシングを行うRNAが発 見された2).このRNA酵素，リボザィムの発見により RNAが遺伝情報と酵素活性の両方を保持しうるという こと力s確認された.そしてこの衝撃的な研究発表の数年 後，Gilbertによって"RNAワールド"という用語が創 出されるに至る3).以降，現在でもさまざまな形でこの 仮説に対する検証がなされている力5，この仮説を完全に 立証するためには克服すベき問題がまだまだ山積みのよ うである.しかしながら，生命の起源を説明するもっと も有力な説の一つに依然変わりはないようである.