鹿児島県指宿市に侵入したィモゾゥムシの定着に関する 空間疫学ならびにリスク要因分析

摘要

鹿児島県指宿市で2008年11月に，植物防疫法により侵 入とまん延を警戒する重要害虫に指定されているィモゾゥ ムシが発生した（2012年3月根絶).本稿では，発生地点 と寄主植物地点の空間分析と，市民からの聞き取りに基づ いた疫学調査（症例対照調査）を組み合わせて，本種の定 着に関する3つの仮説の検証とそのリスク要因の推定を試 みた.本種の発生は，サツマィモ（46地点）と野生寄主植物の ノアサガオ（4地点）で認められた.本種の発生頻度は， 野生寄主植物よりサツマィモで有意に高かった.また，本 種発生地点のサッマイモ栽培の多数が殺虫剤を使用しな い，自家消費が目的の栽培であった.さらに，寄主植物と発生地点の空間分析を行った結果，サツマィモ地点は 36m間隔（中央値）で集中分布していた.本種の定着のた めには，農薬を使用しない自家消費目的のサッマイモは好 適な寄主植物であり，本地域ではこのようなサツマィモが 自力移動の可能な範囲内に集中していたと考えられた（仮 説①).発生地点において，冬期に塊根をサツマィモ圃場内で貯 蔵を行った地点の被害率は貯蔵を行わなかった地点よりも 有意に高く，貯蔵場所から発生地点までの距離と被害率に は負の相関関係を認めた.塊根の貯蔵場所は本種の越冬場 所としての働きを担っていたと推察された（仮説②).本種に対する調査対象地域の住民の認識は非常に低く， 被害塊根を知らずに塊根の廃棄や授受を行っており，本種 の移動と分布の拡大には人間活動の関与が示唆された（仮 説③).定着の要因を過去に遡って検証（症例対照調査）した結 果，「殺虫剤を使用しない栽培」，「自家消費が目的の栽培」 および「塊根の圃場内貯蔵」の関与が示唆された.