分子生態学的手法による水田土壌のメタン生成古細菌の動態と多様性に関する研究

摘要

水田は，水稲栽培期間の大半が湛水状態にあり，土壌中の 易分解性有機物は，多様な嫌気微生物による様々な分解過程 を経た後,最終的にメタンと二酸化炭素まで分解される.従つ て，メタン生成反応は，水田における有機物分解の最終過程 と言える.メタン生成菌は，メタンを生成することでェネル ギーを得る唯一の絶対嫌気性微生物であり，現在までに分離 された菌は，全て古細菌（ァーキアともいう）ドメインに属 する（以後，メタン生成古細菌とする）.水田のメタン生成 反応はこのメタン生成古細菌力';担L、，その生理、生態の解明 は，水田のメタン生成機構のさらなる理解に繋がる.しカゝし， 過去に培養法により行われた水田土壌のメタン生成古細菌に 関する研究では，土壌中のメタン生成古細菌数は，メタンが 活発に生成される湛水期の土壌，見かけ上メタン生成が見ら れない落水後の土壌，さらにメタン生成の基質の種類に関わ らず年間を通じてほとんど変化しなかった.加えて，、し た水田土壌にもメタン生成古細菌が生残しており，極めて酸 素に感受性を示すはずのメタン生成古細菌の土壌中における 生態は大きな謎であった.本研究では，水田土壌屮のメタン生成古細菌の生態の解明を目的として，1990年代以降発展 し，土壌中の微生物群集の解析に取り入れられてきた分子生 態学的手法により，水田土壌のメタン生成古細菌の群集構造 およびその動態，多様性を明らかにした.