リン酸資源の枯渴に対応したリン栄養研究3.植物による難溶性無機リン酸の利用

摘要

植物にとってリンは要求量が大きく，一般に，窒素に次 ぐ第二制限栄養素である.ところが，花色や果菜類の品質 向上に効果があるとされることから，我が国の農地（特に 施設土壌）ではしばしば過剰施肥が問題になるが，自然界 では欠乏しやすい元素である.例えば，多年草であるスス キが二次遷移で優先種となる理由の一つは，枯れた株元に 前年に吸収したリンを蓄える能力によるもので，自然植生に大きく影響を与える（鄭ら，1994).この「自然環境で リンが不足しゃすいということ」は，リン酸とその含有化 合物の化学性と深く関連する.日本においてはリン資源がほとんど無くほぼ100 %輸入に頼つており，経済的に利 用可能な世界のリン資源も数十年で枯渴するといわれてい る（Steen，1998).その一方で，土壌中には粘土鉱物や土 壌溶液中の金属と反応して難溶性リン酸塩となった未利用 のリン資源が蓄積している.世界人口の増加によるリンの 需要増加は確実であるため，エネルギーコスト削減の観点 からも，難溶性リン酸堪の可給態化によるリン酸獲得戦略 の強化が急務である.この溶けないリン酸を利用する能力 は，植物の適応にも深く関わり，典型的な低リン適応植物 であるマメ科のシ口バナル一ピン(Lupi霞albus)は試 験管ブラシ状のクラスター根（またはプロテオィド根）を 持つ（Vance et al" 2003).低栄養土壌が広がるオースト ラリアでは，種を超えて多くの植物が同様のクラスタ一根 を持つことから，植物の低リン適応進化の一つの形と考え られる.この講座では，植物の無機リン獲得に関するこれ までの知見を整理すると共に，各種のリン酸獲得機構間の クロスト一クゃ低リン酸条件下で良好に生育している植物 種での低リン適応戦略との関連を議論する.