1．反賓家畜における乳房炎発症の免疫学的考察 ＝乳腺上皮細胞に及す黄色ブドウ球菌性スーパー抗原の影響について＝

摘要

我が国の酪農は，飼育設備の近代化と農家戸数の減少に伴い多頭化の傾向が進み，1戸あたりの飼育頭数は平均約64頭にまで達しているが，依然として乳房炎を原因とする経営利益損失の割合は大きい。2002年度における乳房炎の発生状況（家畜共済統計）では，死廃事故の約15％，病傷事故の28％を占め，1農家当たりの年間損失額もおそらく数十万から数百万円であることが予想される。全国の酪農家，臨床獣医師から発信される乳房炎防除対策の要望は極めて切実である。　搾乳牛におけるこの乳房炎は一般的な日和見感染症として捉えられている。原因はおもに細菌感染によるもので，特に黄色ブドウ球菌に起因するものは慢性化および重篤化傾向があるといわれており予後も悪い。この菌は感染力も強く，これまでに我々が行ったある特定の農家（牛群）における乳房炎の調査では約3割の乳房が同じ起源の菌により感染していた例もある。