生態系の新たな切り口としての安定同位体：安定同位体からみえる生態系のダイナミズム水の安定同位体比の利用による「植物，植生と水の関わり」の解析

摘要

水は生物体の約8割を占め，全ての生命活動に不可欠な物質である．水の安定同位体比は様々な分野での利用が可能であると考えられるが，自動分析のためには少なくとも0．2ml程度の量が必要であるという制限から，まだ一般的に分析が行われるまでにはいたっていない．手作業での分析なら5mu l程度の量で酸素と水素の同位体分析が可能であるが，煩雑でかなりの熟練技術が要求される．一方，自動分析は酸素，水素とも同位体平衡法で簡単に分析が行えるようになった．特に水素同位体比の測定は白金触媒を用いた平衡法による測定法が開発され，分析が飛躍的に簡単になった．この技術は，地球化学の分野の日本人研究者により開発が行われたこともあり，日本ではすでに普及している．現在のところ水の安定同位体比を利用して，最もよく行われているのは植物の水利用の研究であろう．本章は，植物を中心とした水の動きを解明するツールとしての水の同位体比の利用例と今後り可能性にゎいてまとめてみた．もしも土壌水の同位体比が鉛直方向に違いがあれば，土壌水の同位体比の鉛直プロファイルと植物め枝の中の水の同位体比を比較すること，たより植物がどめ深度の水を汲水しているのかを推定することが可能である．