海外農業農村開発-貧困削減と平和構築を目指す－

摘要

私はタイのチャオプラヤ河流域の大平野の開拓の歴史を調べたり，第2次世界大戦後にはじまった近代的な大規模潅漑事業の展開を文献で跡づけたり自分の目で確かめたりする機会を得た。 農業土木技術者が夢をもち夢を語れた幸せな時代であったと思う。 大ダムセ水を確保し大水路で何十万haという沃野を潅漑し稲の生産を飛躍的に高め安定させ，土地利用もすっかり変えていった。高度の標準的な技術が国を越え地域を越えてどこにでも適用できると億じられていた。 どの国のどの地域もかつてはこういう幸せな開発過程を経験してきたはずである。 ひるがえって今日，未開発であるがゆえに開発を待っている地域はもうない。 「開発」を待ち望んでいるのは，過剰な開発のゆえに荒廃した地域であったり，偏った経済開発のしわ寄せを受けて貧困のままにうち捨てられている農村地域であったり，長年の民族紛争に巻き込まれて疲弊してしまった地域であったりする。 今私たちが公的な援助専業として取細んでいる海外農業農村開発は，いわば広義の貧困対策であり，ある場合には危機管理の範疇に属するものである。