ウマの気質に関する行動遺伝学的研究

摘要

ウマも我々人間と同様に、気質（性格）が個々で異なることが知られており、ウマに関わる多くの人々は、その気質の違いを把握した上でウマと接するよう心掛けている。こうした気質の個体差には、遺伝的影響のあることが経験的に知られているものの、その詳細についてはこれまでほとんど明らかとなっていない。 本総説では、国内外でも他に例のない、ウマの気質に関する行動遺伝学的研究について筆者らの研究を中心に紹介しながら、この研究領域の現状や問題点、そして発展性についても考察していきたい。 具体的には、まずウマにおける気質評価法を確立するために、日本中央競馬会の協力を得て馬車公苑および日高育成牧場所属のウマを用い、新奇環境に導入する行動実験および管理者に対する気質評価アンケート法の信頼性、妥当性を検証した。 続いて、気質との関連が予想される遺伝子として11遺伝子を選定し、その翻訳領域の配列、遺伝子多型（配列の個体差）、染色体部位を同定した。 最後に、日高育成牧場の136頭について、気質評価アンケートから得られた気質評価と気質関連候補遺伝子に存在する遺伝子多型との関連について解析を行ったところ、ドーパミン受容体り4型（DRD4）遺伝子に存在する多型が、ウマの新奇探求性と関連することが、二群を通じて認められた。 これら一連の研究結果より、ウマにおける気質の遺伝的背景を解明する方法論が確立され、今後この領域の研究が進展することで、ウマと人間の関係がより親密かつ安全なものへと発展することが期待される。