カイコ胚休眠の分子機構: 休眠ホルモンの合成と受容，休眠開始期に発現する遺伝子を中心に

摘要

昆虫およびカイ±の休眠の一般的な現象と意義については，これまでにいくつかの総説があるので，それらを参照いただくこととして，ここでほ，カイコの胚休眠研究の中で特に筆者らが進めている3つの課題を中心に最近の知見を紹介したい．カイコ卵は，産卵、受精後に核、細胞分裂を続け，嚢胚期（産卵後2～3日）に至って胚細胞の分裂を停止し，休眠に入る．この時期の胚は約15，000個の細胞から構成されている．昆虫にとって形態形成に適した温度は25℃前後であるが，休眠卵が25℃に保護される限り，1年後でもほとんどが休眠状態にあり，幼虫が貯化する卵は数％に過ぎない（図1-aのA）．発育に適した温度であっても，休眠にいったん入ると休眠から覚めないのがカイコ休眠の特徴である．