2014年度日本分析化学会先端分析技術賞CERI評価技術賞受賞者-垣内 隆氏

摘要

塩橋は，ガラス電極を用いるpH計測のみならず，電気分析 化学のあらゆる分野で，事実上，不可欠の機能要素デバイスで ある。垣内隆君が発明し，実用化したイオン液体 塩橋（以下，IL塩橋）は，これまで100年以上にわたって使 われてきた濃厚KCl水溶液からなる塩橋（以下，KCl塩橋） とは，原理的に異なる新しい塩橋である。KCl塩橋は，移動 度のほぼ等しいK+とCl-を，試料溶液に溶出させることに より動的に液間電位差を除去するのに対し，IL塩橋は，疎水 性イオン液体I水溶液間の界面電位差がイオン分配の熱力学に 支配される分配電位差であることを利用して，平衡論的に液間 電位差を除去する。このため，IL塩橋は，KCl塩橋では成し 得なかった，単独イオン活量のより正確な測定を可能とし た。熱力学的厳密さでは測定不可能な単独イオン活量 を，科学的批判に耐える測定量として得られるようにしたこと は，pH測定の実用的利便性にとどまらず，電解質溶液の分析 化学，電解質溶液論，溶液の物理化学にとって意義深く，これ らの分野に新しい知見，展望を与えるものである。