ガンに対する遺伝子治療の現況

摘要

細胞の械能に関連するいろいろな遺伝子の解析により，さまざまな病態の原因となる遺伝子異常が明らかになってきた。 癌においても，その発生と進展が細胞の遺伝子異常に起因することが，明らかとなってきた。 このことから，欠陥を有する遺伝子を正常な遺伝子に置き換える，あるいは欠陥遺伝子の機能を正常遺伝子により補うことができれば，痛を根本的に治療することができるのではないかという期待が生まれてきた。 これが，狭義の癌遺伝子治療で，「癌遺伝子の治療」とも換言できる考え方である。 しかしながら，現段階での癌病態に対する理解度や技術の限界を考慮すると，この手法の癌治療への応用に関しては，問題点が多い。 その原因の主なものとしては，耳偏の病態の原田となる遺伝子異常に関しては，まだ不明な点が多いこと，②遺伝子異常は単一ではなく，複数であることが多いこと，③癌は，転移を伴う全身病で，局所的な療法のみでは治療効果が期待できないこと，④同定された疾病の病因遺伝子の置換あるいは補正をしても，既に存在する病態あるいは症状の改善につながらない場合があること，⑤現在の遺伝子導入技術に限界があること，などが挙げられる。⑤については，本特集の他項にて解説済みであるので，本稿では詳説を避けるが，遺伝子導入ベクターの能力の限界により，この手法が制限を受けていることは明らかである。