イネの誘導抵抗性に問わる転写因子WRm5の発見とその利用農業生物資源研究評

摘要

病害による作物の被害は大きく，イネのいもち病だけでも世界で毎年6，000万人分に相当する被害がもたらされている。 これまで，作物の病害からの防除は主に農薬を用いて行われてきた。 しかしながら，経済的なコスト，散布に要する労働コスト，環境負荷，食品安全性，耐性菌出現の可能性等の理由から，遺伝子を用いて作物自体の防御機構を高めることが望まれてきた。 抵抗性誘導剤は，植物自体の防御機構に作用して病害を防除する点で，殺菌剤などの病原菌に対して作用する農薬と異なる。 また，プライミング効果により，イネの生育に対する悪影響が比較的少ない。 筆者らはこれらの点に着目し，抵抗性誘導剤が作用する植物の防御機構においてキーとなる遺伝子をイネから同定しようと考えて研究を行い，ベンゾチアジアゾール（Benzothiadiazole，BTH）によって発現誘導される転写因子W．RKY45（ワーキー45と読む）を見出した。 WRKY45は，イネに再導入して恒常的に発現させると，いもち病および自業枯病に対して極めて強い抵抗性をイネに賦与することがわかった。 また，BTH処理と同様のプライミング効果を示した。これらの利点から，WRKY45の実用化に期待が寄せられている。 本稿では，WRKY45の発見に至る経緯や機能の概要，その利用法の開発についての今後の展望などについて概説する。