ショウジョウバエの件行動を生み出す脳と遺伝子の仕組み

摘要

動物の行動がどこまで遺伝的に決まっているのか，これは古くから熱い議論を呼んできた問題である。 にもかかわらず，系統立ててこの問題に迫ろうという試みは決して多くない。 キイロショウジョウバエを使って行動と遺伝の関係に正面からアプローチしたパイオニアとして，セイモア、ベンザー（Seymour Benzer）の名が挙げられる。ベンザーはもともと物理学者で半導体の研究をしていたが，第二次世界大戦後，分子生物学に転向し，大腸菌の遺伝子研究で優れた成果を上げた。 やがて，遺伝子の転写や複製，タンパク質合成をめぐる“セントラル、ドグマ”が確立すると，先端を走っていた多くの分子遺伝学者は，もっと複雑で謎の多い現象の研究を求めて，新しい分野に挑んだ。 1960年代初頭である。 誰もが注目したのは脳神経系の機能であり，その結果として生み出される行動であった。この時，ベンザーはすでに40歳を過ぎていたが，この潮流の中で再びの転向を果たす。 彼もやはり，脳と行動の分子メカニズムの解明に心惹かれたのだ。