ウツボカスラの消化酵素－ネペンテシン－

摘要

食虫植物は酸性プロテアーゼを分泌し，捕獲した昆虫などを消化し，栄養源として利用している．最近，われわれはこの種の酵素としては初めてウツボヵズラのプロテアーゼ“ネペンテシン”（ネペンテシンI，IIの2種）を完全精製し，諸性状を検索した．これらの酵素は50 degCまたはそれ以下では顕著な安定性を示し，とくにネペンテシンIはpH3～10の広い範囲において30日以上活性を保持するという驚くべき安定性を示した．これは，それらの植物の本来の生育域である熱帯地方の温度下で，酵素が長期間にわたり，安定に働き続けられるよう進化的に適応した見事な結果であると解釈される．一次構造解析から，これらの酵素は従来知られている通常のアスパラギン酸プロテアーゼと比べ，同種酵素ではあるが，相同性は約20％と低く，一方2倍（6個）のジスルフィド（S－S）結合をもつことが明らかにされた．この高いジスルフィド結合含量，またネペンテシンIは糖鎖を含むこと，などが主な安定性の要因であると考えられる．分子系統樹からは，本酵素はアスパラギン酸プロテアーゼの新規なサブファミリーを構成することが知られた．