畜産領域におけるL－カルニテン給与に関する研究の方向 －国内外の研究紹介と併せて－

摘要

L－カルニチン（以下カルニチン）に関する研究は古くから行われている。栄養学的意義はエネルギー生産の円滑化（長鎖脂肪酸と結合してミトコンドリア膜透過を促進，老廃物の排出）が知られており，その他に乳酸の蓄積抑制，血糖値の低下，免疫賦活に関する作用など人の医学領域の面で数多くの研究が進められている。カルニチンは1905年に筋肉抽出物中に発見されているが，その一方で穀類に寄生するチャイロゴミムシダマシの幼虫が成長する際の必須成分として考えられビタミンBTとされた。1951年にCarterらはこれらが同一物質であることを確認し，この報告以降，生理的作用はビタミン様であるが，ビタミンとしては扱われなくなった。さらに，人の医学領域での研究だけでなく，これまで本誌において鈴木によって和訳紹介された母豚の泌乳増加やほ乳子豚の発育促進に関する報告があるように，動物（生産動物も含む）を対象とした研究も数多く行われている。諸外国における動物対象の研究について2003年にHameyerが取りまとめているが，対象となる動物は，競走馬，乳牛，肉牛，豚，伝書鳩と幅広い。実践面においてはこれら知見を活用して，肥満解消を目的として脂肪消費を促進させるべく愛玩動物（イヌ，ネコ）の食餌への添加，競走馬の持久力向上，疲労回復の促進を目的に飼料へ添加給与されている。すなわち，諸外国の研究ではカルニチンを動物に給与し，エネルギー代謝の促進やその他の生理作用を期待した生産性の向上に資する知見の蓄積に努めており，実践利用が取り組まれている。