水稲用農薬の挙動予測モデルの開発

摘要

わが国の水稲栽培において，夏期の高温多湿は稲の生育を害する多種多様な病害虫や椎草を発生させ，これらの防除に農薬は必要不可欠な資材となっている。 その一方で，農薬は病害虫あるいは雑草に対して生理活性を持つ化学物質であることから，近年，農耕地やゴルフ場等で使用される農薬が河川や湖沼等の公共用水域に移行し，飲料水源の汚染や生態系へ悪影響を及ばしているのではないかという社会的関心が高まっている。 農薬による水，土壌等を経由しての人の健康や生態系への影響を評価するためには，「農薬の毒性の程度」と「人や生態系を構成する生物が暴露すると想定される濃度（環境中予測濃度）」の両者を把握する必要がある。 欧米諸国では，環境中予測濃度の算出のための野外試験に要する時間，経費等を軽減する目的で，農薬の物理化学的性状，土壌特性，気象要因等を用いて畑地条件下での農薬の環境挙動を予測する数理モデルの開発研究が進められ，現在では農薬登録の際の環境リスク評価に活用されている。しかし，わが国の主要な農耕地である水田環境における農薬の挙動を予測する数理モデルの開発研究は非常に少ない。