「価値観同盟」の試練: 英なきEU·メルケルなきEUの新時代

摘要

いま欧州は内外で大きな変化に直面している。域内では欧州統合の枠組みから半世紀ぶりに英国が抜け，盟主ドイツを率いてきたメルケル首相が4期16年の任期を終えて退く。域外では，トランピズムから国際協調に転じた米国との関係復活を探る一方で，強権化する中国·ロシアとの対立が激しさを増す。「英なきEU·メルケルなきEU」という新たな時代の幕開けだ。長年にわたって統合深化を妨げてきた英国がいなくなり，結束しやすくなつた半面，欧州の女王として域内をまとめてきた老練なメルケル氏を欠く。グローバルな政治秩序という視点に立てば，トランプ米政権に起因する欧米冷戦が終わり，世界における「民主主義陣営vs強権国家」という図式がはっきりした。追い風と向かい風が入り交じるなかで欧州は「価値観同盟」としての側面を強めつつある。目先の成長より持続可能性を重hじ，温暖化対策を推し進める。民主主義や人権重視など西洋の価値観を前面に押し出し，性·人種·宗教差別に厳しい態度をとる。つまりリベラルの風が吹く。伝統的で窮屈な宗教·社会観を否定するやり方は，啓蒙思想をほうふつとさせる。日本にはチャンスでもあり，試練でもある。対中強硬に転じた欧州はアジアで日韓豪といった民主主義国家に目を向ける。一方，欧米の足並みがそろう人権外交や温暖化対策では，日本の出遅れ感が目立つ。盟主ドィッの対中政策の変化を通じ，欧州の未来を展望してみる。