米中覇権争いとハイテクイノベーション：中国のアキレス腱と危機突破戦略

摘要

戦後の世界秩序の中心にあった米国覇権が，大きな挑戦を受けている。人口14億人の中国が年率6%以上の実質成長を続けている。他方人口3.3億人の米国が先進国の中では突出しているとはいえ2%台の成長に甘んじている。この趨勢が続けば10年後の2028年には米中逆転は視野に入る。経済規模の逆転は,軍事力の転換を引き起こし，覇権国の交代をもたらす。この10年間の米中対抗は世界秩序の将来を予見するうえで決定的に重要である。米中覇権争いの勝敗は一義的には軍事的優位性によって決まるが,軍事偃位は経済力優位によって担保される。そして経済力は国際分業上の優位性によって決められる。国際分業上の優劣を決めるものが通商摩擦である。マクロ経済学者からは批判の多いトランプ•ナバロ氏が引き起こした対中貿易戦争は，国際分業における陣取り合戦であり，覇権国米国の国益に直結する決定的重要事項である，というものが筆者の考えである。それでは米中貿易戦争の先に何が待っているのだろうか，ここまで来た中国の跳躍を，誰も想像すらできなかったが,この先も誰もが想像できない将来が待っているかもしれない。そうした問題意識の下,以下3点，①なぜ中国はかくも驚異的な経済発展を遂げたのか,②なぜ中国は困難に直面しているのか,③中国に起死回生の妙手はあるか，を軸に全体像を俯瞰してみたい。