凝集とUF膜を用いた下水再生処理におけるウイルス除去に関する研究

摘要

この度は平成28年度日本水環境学会博士研究奨励賞(オルガノ賞)優秀賞を授与いただき，誠にありがとうございます。オルガノ株式会社様およびご選考賜りました先生方をはじめとする学会関係者の皆様方に深く感謝申しあげます。 近年，世界的な水不足問題によって下水再利用が注目されていますが，その由来が下水であることから再生水利用において病原微生物の問題，とくにウイルスによる感染リスクが懸念されます。そのため，再生水利用においてウイルスによる人の健康へのリスクを適切に低減できる下水再生処理プロセスを構築することが必要です。そこで,本研究では，凝集とUF膜処理技術を用いた衛生学的に安全な下水再生処理プロセスを構築することを目的とし，高ウイルス除去を満たす安定的な処理プロセスの開発を試みました。まず，実際の下水処理場内にUF膜を用いたパイロットプラントを設置して検証を行った結果，UF膜処理前段での凝集処理におけるウイルスの凝集効果が処理プロセス全体における除去率を大きく左右していることを明らかにしました。また，ラボ実験においてウイルスの凝集処理に影響を及ぼしている因子の検討を行った結果，pHを制御することでウイルスの凝集効果を向上できることを明らかにし，パイロットプラントにおいても高ウイルス除去を満たすと同時に，安定的に連続運転が可能なプロセスを開発することができました。また，実際の下水中に存在するヒト病原ウイルスと植物ウイルスの除去率を把握した結果，ウイルスの濃度測定手法により除去率相違が生じたことから，この原因を調べ，凝集処理における除去メカニズムと濃度測定手法の原理に関連性があることを明らかにしました。現在は，このようなウイルスの濃度測定手法と水処理技術による除去メカニズムを考慮し，実際の処理施設のような大規模の再生水処理施設において，ウイルス除去率の評価を可能とする方法の開発を目標に研究を進めております。今回の受賞を励みに，これまで進めてきた研究を発展させ，下水再利用分野に大きく貢献できるよう今後一層努力していきたいと思います。