わが国の海上保険法改正の方向性: 海上保険法の特色と審議のポイント

摘要

わが国の商法は「海商法」と呼ばれる法律分野を含んでいます。商法の第三編海商は、"船舶"と"商人"を中心的な要素としており、その舞台となる「海」の世界は、基本法の商法にあっても特別な領域であるようです。海商法は、海上運送に関する規律を中心に、"船主"や"船長"の役割を定め、さらに周辺分野の共同海損、船舶の衝突や海難救助など海上危険•事故の取扱いを定める条文などを含みますが、海上保険に関する規律、いわゆる「海上保険法」が含まれていることは一般にはあまり知られていないと思います。わが国では2008年に商法(第二編商行為)から独立して単行法化された保険法が損害保険と生命保険の全般を規整していますが、幅広い保険分野の中で海上保険だけが保険法を本則とする特別法を与えられています。海上保険のこうしたポジションは1899年の商法制定時から変わっていません。海上保険が「海」の世界に置かれていること、それゆえに陸上の一般的な保険商品(火災保険や自動車保険など)とは大きく異なる特色を有しているためと考えられます。「海」の世界は、様々な国が舞台を共有することからもとより国際的ですが、海上保険[法]の位置付けおよびその内容も主要な海運国で概ね共通しているようです。