建築の父，建築の母 境界を越えて

摘要

2013年2月下旬から開始したィラン縦断旅行も3月の半ばとなり，終盤にさしかかつていた。私たちにイスラーム建築を指南してくれた深見女史は一足先に帰国した。通訳のテヘラン大学の学生(当時)だつた奥山，インドネシァをフィールドの中心とした建築人類学の佐藤，そしてこの無謀なプレート境界の旅を発案した私，そして現地ドラィバーが残つた。その後の私たちは，辺境の集落巡りへ向かっていた。二つの訪問地域が残っていた。一つはイラン•ィラク•トルコ国境にまたがるクルド人の物理的居住地域を中心としたイラン北部である。イランのクルド人居住地域は，ザグロス山間部のコルディスタンという州に編成されていた。紀元前からクルド民族の存在は知られていたが，現代史の中でその扱いはそれぞれの国境の狭間で少数民族の扱いを受けてきた。もう一つはイラン側のカスピ海沿岸である。これは佐藤の提案によるもので，これまでのイランとは全く異なつた高床の木造住宅文化があるというのだった。ここもロシアやイギリスが進駐した現代史を持つ。