原賠制度という虚構:保険が機能しないリスクとコストの現実

摘要

保険には，社会と社会的存在としての人間のあり方，人間が自然と結び人間相互に結ぶその結びつき，リスクのあり方が映し出されている。そのばあい，結びつきの歪みとリスクの歪みもまた映される。原子力保険をもとにできている，原子力損害賠償制度(原賠制度)も同様である。 「国策民営」の名のもと巨大な権力と金力によって，技術的経済的に不可能な原子力発電と核燃料サイクルが推進されてきた。それを支えたのが，原賠制度である。公衆に被害を及ぼす重大事故は起きない，万が一に起きても原賠制度で被害者は保護されるとされた。手に負えないにもかかわらず，原発が成り立っているかにみえた。原賠制度で原子力事業者(大手電力会社)と原子炉メーカーなどの原子力関連事業者の責任と負担を限定するとともに，とめどなく資金が注入され，業者の利益が保証されたからだ。電源三法をはじめとする税金と，総括原価方式によるコストと利益の保証である。