プログラム理解のための実装レベル制約とソースコード間の追跡性の整理保存法

摘要

プログラム理解では実装レベル制約を読み手に低コストで提供する必要があるが，従来研究では軽視されてきた．本論文では実装レベル制約を「法律・規格・標準等の一部で，開発者が準拠すると意思決定したことがら」と定義する．多くの場合，コード断片と実装レベル制約との間には追跡性がないため，例えば建築基準法の改正時に「構造計算法のコードのどこに修正が必要か」を理解することが著しく困難である．このため，コード断片と実装レベル制約間との関係（=実装レベル制約の追跡性リンク）を低コストで整理保存する手法が必須である．この問題を解決するために，実装レベル制約の追跡性リンクをコード中に効率良く整理保存する手法ADIOSを本論文では提案する．実装レベル制約の追跡性リンクの処理が難しい理由を我々は次の3種類ととらえた：（1）実装レベル制約の追跡性リンクは横断的，具体的である．（2）実装レベル制約は大量，細粒度，多種，厳密である，（3）開発者の意思決定を強く反映するので実装レベル制約の自動抽出は困難である．我々が考えたアイデア（ADIOSの機能）は次の二つである：（a）複雑かつ横断的に絡み合うリンク付けを整理保存するためにコンセプトキーワードを導入する．（b）実装レベル制約の追跡性リンク付けは手動で行う．簡潔な三つ組のアノテーション：（コンセプトキーワード，URL，コメント）でこの追跡性リンクを表現する．ADIOSの有用性を確認するために我々は教育用OS udosに本手法を適用した，評価実験の結果，再現率約89.0％，精度約50.0％で実装レベル制約の追跡性リンクを低コストで整理保存できることを確かめた．