月評

摘要

この1年間に刊行された全12号の新建築には，妹島和世と西沢立衛の作品が，個人名義のものとSANAA名義のものを併せると計8作掲載された.この8作には共通項もある.たとえば一部の作品では，浮遊する屋根や勾配屋根が主要なデザイン要素であったりする.けれどもふたつとして同じ作品がないように，個々のデザインの決定因となっているのは，あくまでもその時どきのプログラムであり，コンテクストであり，決して形態への頑ななこだわりではない.そんなふたりのつくる建築は，可変的で，感度が高い.そのことをおそらく如実に伝えるのが，11月号に掲載されたおよそ似ても似つかぬ2軒の住宅だろう.妹島の団子坂の家が，いわば知性による作品だとすれば，西沢の寺崎邸は，感性による作品だと言える.このふたりの才能あふれる建築家の手掛けた両作品は，建築の可能性について多くを教えてくれると同時に，建築設計の難しさをも物語っている.