切断線から考える磯崎新の1970年代実務と理論

摘要

青木淳(以下，青木)僕が磯崎アトリエに入ったのは1982年でした.最初の仕事のひとつは，磯崎ァトリエの週去の図面，スケッチ，写真，掲載誌などを整理·分類し，作品番号を付けるということでした.倉庫から資料を時代順に引っ張り出して検分していったので，70年代の実施図面ももちろh見ています.当時もまだ手描きの時代でしたから，あまり気に止めませhでしたが，CADで図面を描くようになった今見ると，非常に美しい図面ですね.磯崎アトリエでは，数限りない青焼きに耐えるために，特注の縁取りのあるトレぺを使っていました.そこにまず，ロットリングで通り芯を描きます.インクですから，消しゴムで消せないので,—発勝負です.そのグリッドを手掛かりに何度となく図面を描いて，また消して，また描く.図面は，大事に，大事に，描かれていました.また，図面は思考の道具でした.安藤忠雄さhに，アイソメゃ平面図を重ね描きした有名な図面がありますが，製図板に貼られた1枚のトレぺの上で，平面図を描きつつ断面図を横に描いたり，設計中の建築を立体的に把握しながら，図面を描いていくというのは普通のことでした.考え終わったものを描くのではなく，考えることが描くことでもあった.そういう図面は，思考の道筋を辿れるし，また迫力があります.