五十嵐太郎×加藤耕ーノートルダム大聖堂をいかに再建するか: リノベーションの創造性を考える

摘要

去る4月15日，火災によりフランス·パリのノートルダム大聖堂の尖塔が焼失した.本イベントでは，修士論文をゴシック建築とノートルダム楽派で書いた五十嵐太郎氏とゴシック建築の研究などを行い，建築史における既存建築物の再利用（リノベーション）の創造性を説く加藤耕一氏が対談を行った.まず加藤氏は著書「時がつくる建築ーリノベーションの西洋建築史』（2017年，東京大学出版会）をもとに建築の価値，建築における時間の考え方を解説した.たとえば，フランス·アルルでは闘技場が集合住宅に転用され，最終的には文化財となっている.このようにひとつの建築の用途などは本質的に変化してくちのであり，時間の経週の中でリノべーションや転用が行われ，価値を醸成していくことを説明した.五十嵐氏は，加藤氏の話を受け.19世紀に写真や雑誌のシステムが登場したことにより「時間を切り取る」考え方が広まり，建築の保存·解体などを性急に決めてしまう姿勢に繋がってしまったのではないかと分析した.両氏は建築本来の価値を見出すために，エマニュエル·マクロン大統領がノートルダム大聖堂の焼失した尖塔を5年で再建することを宣言していることなどに対し，「時間をかけて考える」ことの重要性を説いた.