ピアノ室のある長屋

摘要

東京都目黒区の住宅地に建つ，ピアノ教室付き住宅とふたつの賃貸住戸が複合した長屋.敷地北側には高さ3m以上の崖があり，土砂崩れの危険性のある1階部分を鉄筋コンクリート，それ以外を木造とした.小学生やその親御さんが訪れるピアノ教室は，賃貸部分と住宅の距離を調整するため中央に配置し，賃貸住戸はSOHOにもできるようメゾネットの形式とした.南東側の道路から，焼杉塀で囲まれた前庭，樹脂アルミ複合のペアガラスの窓，煉瓦タイル敷きの吹き抜けのある玄関土間，明かり障子を並べ，段階的に開放できる仕組みとなっている.1.4m張り出した軒は夏の日射しと窓や玄関の雨がかりを防ぎ，屋根からの雨水はタンクに集められ，水やりに利用され，前庭の樹木と土は夏にはクールスポットになる.鉄筋コンクリートの躯体は，冬の太陽光を受け，床暖房からの熱を溜める蓄熱体となり，安定した温熱環境をつくり出し，それと同時にピアノ室の防音にも役立っている.崖に面する外壁には窓を開けられなし、ことから，小さな吹き抜けを介して北側にも光と風が届けられるように工夫した.室内の仕上げには柔らかな国産のスギ材を多く取り入れた.特にピアノ室ではスギの下見板を縦貼りにすることで，フラッターェコーを防止し，吸音と反響のバランスの取れた音響環境，スギの断面の赤身と白太が即物的に並んだ独特なィンテリアができた.2階の木造部分の内壁は，建主家族と一緒に珪藻土で仕上げた.