視感•触感に訴える布の付加価値

摘要

消費者が衣服を選択するとき，まず目についたもの， すなわち視感に訴える第一印象から入る事が多い.衣服 を手に取り，触感によって肌触りなどの情報を得る.そ して衣服を試着し，似合う，似合わない，サイズや雰囲 気などを総合的に評価し，「欲しい/ほしくない」と いった何らかの判断を下している.このプロセスの中で 評価の一つと成り得る布の「風合い」は.触感や視感と関連が深い.1970年代，日本繊維機械学会のなかに「風 合い計量と規格化研究委員会」が発足し，風合い評価 の標準化と解析が川端季雄教授，丹羽雅子教授を中心に 進んだ.今も継続して様々な結果が学術論文として報告 されている.近年，認知科学などの分野では，「質感」 すなわち材質に関連する感覚を明らかにする研究が盛ん になり，素材や表面状態の認識，判断を基に対象物に対 する嗜好や情動，さらに価値判断や意思決定に至るプロ セスを感性的質感認知と言って，多次元のアプローチが 勢力的にされている.私の研究室でも，布の風合い を狭義の触感覚を中心とする感覚評価量から広義の主と して触感覚と視感覚による織物の好みも含めた感覚評価 量として考え，風合い評価は肌触りや着心地などの快適 性にかかわる要素と密接にかかわるとの方向で研究を 行っている.その中で，感性にかかわる要素をできるだ け見える形，数値におきかえる試みを主に繊維集合体を 対象に続けている.この時，材料の性能評価方法の開発 には，大きく2つのアプローチをしている.一つは，触 感にかかわる物性値の明確化である.従来のKES-systemに含まれてこなかったナノファイバーからで きたシートの圧縮特性評価,羽毛パウダーを表面に付 着させたシートの摩擦特性評価,リサイクルわたの性 質,新しい紡績機械（Vortex)で作られた糸から編ん だ布の風合いと糸物性の関係やしつとり感等であ る.衣服のシルエツトにかかせない接着芯地とデザー ナーの意図するボリューム感の関係も数値化した. もう一つのアプローチは，視感による布の評価，例えば しっとり感に及ぼす色の影響や，近年は特に布に光 が当たった時の反射光の分布から陰影によるテキスタイルの見え方の変化に着目している.最終的には布を見た 時の印象やその変化に着目し，これまでの触感評価と併 せてテキスタイルのもつ人間にとって意味ある性質（価 値）との関係について思考している.新規性や今まで表 に現れてこなかったが.消費者が実感として感じ取って いる曖昧な価値がより分かりやすくなれば良いのだが， まだ研究途上である.本稿では，今まで感じているが はっきりわからなかったものに対して試みた幾つかの事 例を紹介し，その先にある付加価値について考察する.