メカノメディスン： メカノ医工学を用いた医学研究•次世代医療技術への展開

摘要

私たちの体は常に力学的な刺激を受けている.たとえば，心臓は常にストレツチ•シェアストレスといった弾性力学的な刺激を受けている.また，血管は血液からシェアストレス•静水圧といった流体力学的な刺激を受けている.筆者はこれまで，これらの力学的な刺激を実験的に再現するためにいろいろな装置を開発してきた.ストレッチ刺激を与えるために伸展性のあるシリコン樹脂製チャンバーで細胞をストレッチするシステム,シェアストレス刺激を与えるためにマイクロ流体力学に基づくマイクロチャネルシステムの開発に大学院生の頃より取り組んできた.そして，これらのシステムを利用して，メカノレセプターや細胞内情報伝達機構などの研究を行ってきた.論文•学会発表をするたびに，これらのメカニカルストレス負荷システムがほしいとの要望が周囲の研究者から上がってきた.当初は自作をして供給していたが,折しも「産官学」によるベンチャー創出の風が吹き始めていた頃であったので，メカニカルストレス負荷システムの研究•開発のベンチャー企業「ストレックス」を設立した.当初は細胞•組織にメカニカルストレスを与える再生医療向けのシステムを開発していたが，その後，不妊治療に使用することも可能であることがわかり，その分野にも参入した.本稿では，設立からそのEXITまでを紹介したい.