第61回日本音響学会論文賞古井賞

摘要

日本語母語話者は，長さ以外に音の高さ(ピッチ)を手掛かりとして長短母音を含む単語を識別している。もちろh長さは主要な手掛かりであるが，時間情報が曖昧になればなるほどピッチの手掛かりが重要になる。一方，高齢になると周波数の弁別能が悪くなることが報告されている。本研究では，母音の持続時間と基本周波数を操作し，「おばさh」と「おばあさh」という単語対に関し2変数の連続体を使って若年者と高齢健聴者に対する識別実験を行った。その結果，中間的な持続時間のとき，高齢者の約半数がピッチを手掛かりとして利用できていないことが分かった。また，識別結果は，参加者の周波数弁別域(DLF)と相関があることが示された。DLFが良い高齢群と若年群との間には，識別結果に差が見られなかった。その一方で，DLFが悪い高齢群との差は統計的に有意であった。このように，高齢者を一つの群と見なすのではなく，ピッチに対する知覚の劣化という観点で見ることにより，識別結果との関係性が明らかとなった。