立原道造「無題[浅間山麓の小学校]」鳥瞰図の構図について: 立原道造の田園的建築観に関する研究

摘要

The purpose of this paper is to clarify the characteristics of birds-eye view drawing "Untitled [The Elementary School at the Foot of Mt. Asama]"which is drawn by Michizo Tachihara. This paper analyzes the location and the subject of his work, and investigates the similarities with Paul Cezanne's "Montagne Sainte-Victoire". The conclusions are as follows. 1. We clearify Elementary School is located in Karuizawa-Seibu elementary school. 2. Tachihara studied deeply Cezanne's paintings through the "Shirakaba" and Rilke. 3. The drawing of Elementary School and "Montagne Sainte-Victoire" have many similarities such as the shape of the mountain ranges and the overlap of the foregrounds and background.%本稿では、立原道造の建築観が色濃く反映された「無題[浅間山麓の小学校]」鳥瞰図の構図について考察した。とくに、立原の「小学校」鳥瞰図とセザンヌ「サント=ヴィクトワール山」との類似性を指摘した。本稿で明らかとなった点を以下にまとめる。1. 「小学校」の敷地は、追分油屋旅館近郊の旧中仙道沿いに面した軽井沢町立軽井沢西部小学校の校地が想定されていた。2. 「小学校」校舎の配置を示した鳥瞰スケッチの変遷から、計画の完成度が高まるにつれて、描画対象が建築から浅間山へと移り、最終的に、山岳風景と調和した建築の佇まいが主題とされたと考えられる。3. 「小学校」に取り組む以前より既に、立原は、リルケを追究する過程でセザンヌへの関心を深めていた。また、リルケを介する以前より既にセザンヌの模倣を試みていた。4. 「小学校」提出以降も、浅間山麓の風景を描くにあたってセザンヌの絵が参考とされており、繰り返し浅間山を構図の中心に据えた透視図を描いていることから、セザンヌの「サント=ヴィクトワール山」が意識されていたと推定される。5. 「小学校」鳥瞰図と『白樺』に掲載された「ヴィクトアル山」には、山なみの形状、前景と後景の結合、斜めに走る道路、薄塗部分の位置など構図上の類似点が4つ指摘できる。立原が『白樺』を所有していたことからも、「ヴィクトアル山」が参照されていた可能性が指摘できる。立原は、山岳を含む田園的風景をうたつた詩作に励む一方で、詩人としての研鑽の過程で、『白樺』やリルケを介して、セザンヌの絵画への理解を深めた。一方で、御岳山の山なみをパステルによって描き続けることで絵画表現者としても修練を積んでいた。これら文学、美術双方の研鑽の成果は、建築家としての研鑽に生かされ、最初期の建築設計課題「小学校」鳥瞰図に体現されたといえる。