歴史的風致維持向上の観点からみた現状の地域住宅生産システムの実態に関する研究鹿児島県南さつま市加世田麓地区を事例として

摘要

In this research, houses with historical scenic beauty are first classified according to the construction period, and then elements such as the current physical condition, the suppliers, and the maintenance status are investigated. There are 4 main conclusions. The buildings with historical scenic beauty are mostly inherited, but many of the houses that are not inherited currently are in a mixed state; new constructions are not connected to the improvement of the historical scenic beauty; the maintenance management system of buildings with historical scenic beauty is weakening; there is an increasing tendency in the efforts for utilization of traditional houses.%加世田麓地区の歴史的風致を維持継承する家屋の残存率や継承率の実態は、伝統的家屋の残存率は保存地区では40%、誘導地区で は9%、地区全体では22%まで減少してきたが、準伝統的家屋や地域 型住宅などの様々な時代の歴史的風致の維持向上に資する家屋が現 在の加世田麓地区の歴史的風致を補完的に形成してきており、敷地 に対する継承率では約50%、トータル棟数での継承率では約100%に 近い割合となっていた。その際、地区全体では歴史的風致の密度が 疎になってきたが、伝統的家屋の所有者以外にも歴史的風致を形成 することに対する影響が及んできた。住宅供給の観点から見た歴史 的風致の実態は、地域全体の住宅棟数に対する歴史的風致を形成す る家屋の割合が、保存地区では約34%、誘導地区では約28%、全体で は約30%となっており、歴史的風致を形成しないその他の70%近くの 家屋が混在した状態にある。また、加世田麓地区の新築工事は全国と同様ピーク時の半分まで減少しており、維持管理工事の役割が相 対的に向上している。歴史的風致維持向上における地域住宅生産シ ステムの課題は、地域型住宅の供給が新築供給のうち13%程度と低 く、 2000年以降は地域型住宅が全く供給されておらず、地域の新築 需要が歴史的風致の向上に寄与しない状況にあること、伝統的家屋 及び準伝統的家屋の維持管理体制が弱体化していること、利活用の 取り組みは伝統的家屋を中心に近年増加傾向にあるが未だ少ないこ とである。