認知証診療の進化と深化

摘要

認知症の最大の危険因子は加齢であるが，世界中で高齢化が進み，世界全体で現在ではおおよそ3秒に1人の認知症者が発生しているといわれる.この傾向は現状のままでは変わることはなく，現在4,700万人といわれる全世界の認知症者数は2050年には1億3千万人，すなわち現在の本邦の人口とほぼ同数となる.現在，認知症に対して全世界が負担しているコストは8,200億ドルに上り，これは，株価総額世界第一位の米国アップル社の7,400億ドルをはるかに凌駕する.現在では認知症は先進国における問題と考えられているが，経済発展に伴い新興国や発展途上国において今後は大きな問題となることが危惧され，2050年には全認知症者の68％が現在の中～低所得国の国民となると予想されている.認知症の効果的な予防をもたらすことのできる方法が見つからない限りは，人口統計と経済統計を基にしたこのような予想は必ず的中してしまうだろう.少子高齢化が人類の歴史上例をみない速度で進行している本邦においてはより状況は深刻であり，厚生労働省の推計では団塊の世代が75歳以上となる2025年には認知症者の数は700万人と予想されているため，そう遠くない将来に1,000万人を達成することも危惧される.そのようななかで，若年人口の減少は確実に進み，認知症にかかる社会的コストの増加は国家財政への脅威と考えられている.こういった流れを汲み，2015年に政府は新オレンジプランを策定した.認知症高齢者にやさしい地域づくりを標榜するこの計画では，いわゆる7つの柱(図1)に立脚した社会体制を構築しようとしている.認知症者に対する医療をできるだけ効率化してコストを抑制し，かつ介護やサポートを社会全体で広く薄く分担するモデルを構築しようとしている.実際，認知症者の生活を支えるためには持続的で，認知症者を取り巻く環境全体を包括的に支えていく仕組みが必要なことはいうまでもない.つまり「医療」という枠組みを超えて，また認知症者本人だけでなくその家族も含めて支えていく仕組みづくりが求められるのである.