巻頭言　自然資本を中心としたグリーン·エコノミーの展望

摘要

自然資本の豊かさを保持しながら，十分な経済水準を維持させていくこと，いわゆる「グリーン·エコノミー」を経済社会は実現できるのだろうか。より経済学的な言葉で表すと，自然資本利用の制約がある中で，永続的に一定以上の経済水準を維持することは可能なのか。歴史的には，マルサスからメドウズまで，論拠はさまざまであるが，おしなべて悲観的な見解が提示されてきた。一方で，経済理論の中では，この問題に対して，このような悲観的見解に一石を投じる興味深い研究が集中して行われた期間がある。第一次石油ショックを契機に，石油が枯渴性自然資本であるという現実を突きつけられた経済学者は，その制約の中でも経済が生産を続けることが可能な条件を見いだすことに力を注いだ。短い時間の間に，その多くの成果は，「Review of Economic Studies」の特集号や他の一流ジャーナルに掲載された。この中の画期的な成果の一つは，ロバート·ソロウが示したように，石油のような，生産活動には不可欠な枯渴性自然資本の制約があっても，人工資本が代替可能でいくつかの条件を満たすケースでは，経済には一定の消費水準が永続的に実現可能な経路が存在する，というものである。そこでは，自然資本は枯渴していくものの，人工資本がその経済経路の指示に沿つて蓄積されていくことで，見事に同一水準の生活水準がすべての世代で可能となる。自然資本の枯渴性が必ずしも経済的豊かさの持続不可能性を意味するものではないことを示すものであった。